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遊の授業から

はじめに...の続き...

小学1年生ある時の「漢字」

1年生の秋、漢字を始めた。まず「土」という字に取り組んだ。
1日目は画用紙を横につなげてクレヨンで広い大地を書き、そこにそれぞれ好きな種をまく。
2日目の天気は土砂降りの雨だった。画用紙を上にもつなげると「あめふり」の詩を口ずさみつつ、勢いにのって雨を降らせる。

3日目は上から降り注ぐ太陽の光をたっぷりと描く。
4日目は芽が出ますようにと、自分たちが芽になって上に向かってぐーんと伸びをした。
5日目位でやっと芽を出す。双葉を描くと「土」という漢字のような形になる。
やってみて改めて気づいたのは、このスピードは子どもにとっては決してのんびりではないということだ。「ねぇ、もう芽がでちゃうの?」と言われる。「土」という字を、下から書き始める子どもたちを見て、この体験はきっと忘れないだろうなと思った。
お散歩でどんぐりを拾ってくると、石でたたいて割ってみたり、皮をむいたり、ついでに味見までしたりして熱心に研究を始める。どんぐりは皮をむくと白い。 枝のちょこんと付いた帽子つきどんぐりの絵を描き、その形から「白」という漢字を引き出した。秋晴れの日に影踏み遊びをしていると、自分の姿がいろいろな形になることを発見。「大」「小」「人」などは影の形からとった。
滴の形を確かめるところから始まった「水」。水道から落ちるところをじーっと見て「みえたー!」と言ってそれを描く。滴の中に「なかなか見えないんだけど、きれいな模様があるんだよ」と「水」のように模様を描いて見せると「しってるよ。みえるもん!」ときれいに色わけして塗っていた。滴がポタンポタンと落ちるのを見るのが大好きになったので、雨の日になると雨がどんな風に見えるかよく観察した。線のように降ってくる雨や、滴が見える雨。絵を描いたら自然に「雨」の漢字になっていた。
子どもたちは五感を働かせて身の周りのものを興味深く感じとっている。それと同時にファンタジーの世界で、イメージはどんどん膨らんでいく。ひとつ一つの漢字がそれらと結びつき、それぞれの心の中で何かかけがえのないものが生まれているような気がする。

小学3年生ある時の「家づくり」

遊の3年生は、エポック授業で「家づくり」をします。
はじめは、人にとっての住居の必要性をいっしょに考えます。「大昔に突然戻っちゃって夜になったらどこで寝ようか」「木の下じゃあ、けものがくるね」「やっばりほらあながいいよ」「水がいるよね、川が近くにないと」「食べ物のある森もなくちゃ」原始人気分の子ども達の想像は広がります。

その後、ほらあな住居から今の家まで歴史をたどりました。
次に、家をつくるのに大事なもの、ルフト(空気)リヒト(ひかり)ゾンネ(太陽)を取り入れた家を考えました。子ども達が考えた“理想のおうち”はそれぞれ夢いっぱいです。
大工でもない子どもたちは測量も、メジャーも、ものさしなども使わず体を使ってはかります。手を使った度量衡、日本古来の、つか、あた、ひろという言葉が飛びかい「この部屋たてが、2ひろと3あただ」「身長もあたではかろうよ」とセンチメートルではない計算におもしろがって何でも計っていました。
「家づくり」といいながらなかなか作りはじめないことにじれてきたころ。稲刈りが終り、待望の“わら”が届けられ、遊の階段下スペースに家作りがはじまりました。竹を組み、細竹を麻縄で結わき、骨格ができあがってきました。わらは貴重品。ていねいに編むとムシロになります。
雨の日には遊のお父さんがつくったムシロ編み機を使ってムシロを編み、風の強い日には風でとばないようしっかりとめて、すこしづつ、すこしづつ家ができあがってきました。壁も天井もわらがびっしり押しつけてあって、出来あがった小きなおうちはすきま風が入る風通しのよい家。でもムシロのドアをあけて入るとなぜかあったかい空間。6人も入るといっぱいです。
いちの時間のおわり、ムシロにつめあって座り、灯したろうそくのもと一心にお話をきいている子どもたちといると、ここが東京の国立であることを忘れました。

中学1、2年生ある時の「歴史」

まず、二千年の物差しを作る。紙を細く切って貼り合わせ、巻き尺を作る。一年を一ミリにすると二千年は二メートル。それに一世紀=十センチごとの目盛りを刻む。飛鳥、鎌倉・・・といった時代区分は、きれいに色分けをして示す。

この物差しで計ると、明治維新なんてつい昨日の出来事に思える。平安時代はとんでもなく長くて、関ヶ原の合戦から現代までがすっぽり収まってしまうことも一目で見てとれる。それからこれまで、いろいろな形で聴いてきた「おはなし」の登場人物、たとえば義経、卑弥呼、田中正造、武蔵、信長、良寛さん、かぐや姫(?)などという人たちが、どのあたりに生きていたのかも、この物差しでおさらいしておく。
そうしておいて小学生時代にはあまり話題に上らなかった四〜八世紀の日本に旅をする。
詩を唱える。谷川俊太郎の「埴輪」という詩を暗唱し、毎回授業の始め、皆で大声で唱える。
埴輪が作りたくなる。粘土をこねて、いくつもいくつも作る。「おはなし」を聴く。仁徳の色好みと善政について。渡来人のもたらした豊かな技術について、イメージを紡ぎ絵にする。中学生ともなると細部にこだわりたくなる。歩いて五分の図書館に行き、皆でごっそり資料を借りてくる。前方後円墳を色鉛筆で美しく描く。立体的に丁寧にかき上げるのは大変だが、充実感がある。内部の壁画の写真を見つけ、その色彩の鮮やかさ、フォルムの面白さに驚く子がいる。すかさず皆で写す。
細かい字で黒坂にびっしり書かれた解説を必死で写す。「おはなし」を聴く。仏教伝来のいきさつと聖徳太子の超人伝説について、「日出処の天子」なんてマンガもクラスで回し読みする。法隆寺の宮大工だった西岡さんの本を読む。別の本では焼け落ちた金堂壁画の前で合掌する管主の写真に見入る。
いつも賑やかな教室に束の間の沈黙が訪れる。時には口頭でのみ行われる講義の内容を家でレポートにまとめる。あやふやな所があると翌朝七時前から来て友達と教え合う。万葉の世界に遊ぶ。まずは声に出して読む。不思議な響きのことばを舌で味わう。何百という歌の中から、なぜだかわからないが、心にピタッと来るものが見つかる。
解説を聞く。歌の背後の恋愛や政治のドラマについて「おはなし」を聴く。複雑な人間関係を系図に書いて説明する子がいる。
長歌も覚える。壮大な調べ、奔放な想像力の人麻呂作品と貧者の暮らしをリアルに描く憶良の作品。グループに分かれ朗唱の仕方を工夫する。
小説を書く。二首の歌を覚え、その背景となった事件について説明を聞き、思いをめぐらせる。歴史のシリーズの間ずっと部屋の隅に積み上げられていたたくさんの資料に改めて目が行く。当時の建物、服装、食べもの、食器について調べ絵を描く。
原稿用紙の使い方を神妙に教わる。脇役の名前を決めるために万葉集をパラパラめくる子もいる。ふだんめったに手にとらない辞書をひく。二首の歌を読み返し、もう一度説明を聞く。さらにさらに思いをめぐらす。
週末を使って作品を仕上げる。千二百年前の人の気持ちがほんのちょっぴり理解できた気がする。胸の中が何だかほんわりしてくる。

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